草野翔の経済コラムPart4 連合王国に別れのキスを

イギリス連合王国の維持についてもはや誰も望んでしない。世界を分断した超大国の末路がこれだと考えると興味深い。

 1900年。イギリスという連合王国は世界を完全に支配していた。だが、黄金時代は2度の世界大戦により終わりを迎える。戦後はアメリカの最も親密な同盟国として歩んできた。EUに加盟はしていたが、そもそも欧州統合について、少なくとも保守派はあまり乗り気ではなかった。

 2016年。で珍しく国民投票が実施された。EU離脱についての是非を問うものであり、結局のところ離脱派が勝利した。その後メイ首相はEUとの交渉に挑んだ。EUとの交渉自体はそこそこ上手くいったが、国内の混乱は続いた。残留派が大半を占める野党である労働党が反発するのは想定されていたが、味方であるはずの保守党の議員すら離脱交渉案を弱腰であると批判したのだ。そのためメイ首相は辞任し、強硬な離脱派のジョンソンが首相に就任した。

 しかし、離脱交渉をめぐる混乱はまだマシであった。実は離脱派が連合王国全体では多数を占めたが、北アイルランド、スコットランド、ウェールズでは残留派が大半を占めた。しかし、人口が多いイングランドでの離脱派の躍進があり、彼らの意見はロンドンの議会には反映されなかった。ここで新たな問題が浮上した。ロンドンの政府は果たして信用できるのか、という問題である。

スコットランドや北アイルランドの独立運動は長年ロンドンの議会を悩ませてきた。結局ベルファスト合意や2014年の住民投票で何とか乗り切ることに成功したが、2016年の騒動の結果、比較的独立に否定的だった有権者の不満も強まってしまった。

 更に北アイルランドについてはベルファスト合意後の国境の開放が問題を更に複雑化させた。もはや北アイルランドの経済はイングランドよりもアイルランドと強く結びついている。その上、ベルファスト合意では北アイルランドの帰属を巡る住民投票を実施する権利を認めている。つまり、北アイルランドにとってはEU加盟国でもあるアイルランドとの統合はかなり経済的メリットがあるのは確定である。イングランド系住民は統合に前向きではないと捉えられがちだが、若いイングランド系はEU加盟国であり、かつ急速にリベラル化したアイルランドとの統合を支持する傾向があり、アイルランドとの統合を求める運動は強まるだろう。

 そして、イングランドでは更に興味深いことが発生した。保守党、厳密には保守統一党の支持者の過半数が連合王国の維持に否定的なのだ。労働党のコービン党首はIRA支持をかつて公言していたスコットランド人であり、北アイルランドやスコットランドの独立について肯定的だと考えられるが、彼自信、あるいは労働党支持者以上に保守党の政治家や支持者は連合王国の維持について無関心であるのだ。

 ロンドンの議会は国益による議論を完全に放棄した。結局ブレグジットはジョンソンの政治的パフォーマンスに過ぎなかった。そしてそのパフォーマンスはロンドンの横暴を明らかにした。その結果独立運動は激化し、連合王国国民の過半数が今後も連合王国が維持されないだろうと予測している。

 今後、連合王国が歩む可能性がある道は複数存在する。まずは、スコットランドや北アイルランドの自治を強化することで延命を図るというものだが、保守強硬派であるジョンソンがこれを選択することはなさそうだ。次は、住民投票で帰属を決定させるというものだが、これも政治的混乱を生む可能性がある。となるとおそらくジョンソンはこれを選ぶことになる。それは現状を悪化させるようなイングランド優遇政策をとることである。結局のところ、何れのケースにおいても連合王国の維持は困難である。あるドイツ人の言葉が現状、つまり連合王国の成れの果てを説明している。他国を支配しようとすれば、自国が分断される。皮肉なことに今回はイギリス的な民主的プロセスと国民の合意に基づくものだが。

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