トランプ前アメリカ大統領は中国との貿易戦争でデカップリング(経済の分離)を目指していた。結局のところ、彼は失敗した。実際のところ中国の対米輸出以上にアメリカの対中輸出の方がマイナスの影響を受けたため、それが成功していたとしてもアメリカには旨味がないものだった。
ところでデカップリングは可能なのだろうか?グローバル化が進んだことで一見不可能のようにも見えるが、実際のところは可能である。しかし理論上可能であると言うべきであろう。
デカップリングを推進するためには自国及び近隣諸国、友好国でほぼ全ての製品やサービスを自給する必要がある。そして、分業の推進によってデカップリングを推進することができるのはアメリカではなく、むしろ中国であるのだろう。
アジア地域は多様性に満ちている。それは宗教、言語、民族においてもそうだが、経済事情も例外ではない。日本や中国、韓国のように1人あたりGDPが1万ドルを超える国も存在するが、ミャンマーやインドのように3000ドル程度の国も存在する。興味深いのが既にアジアでは地域内分業が盛んに行われている、ということである。例えば日本でアパレルメーカーが新商品の企画を実施し、ミャンマーの企業が生産を下請けするようなものだ。もっと複雑な例だと、中国のIT企業がモスクワのハイテク産業地区でインド企業と協力する、というような事例も存在する。そして実際のところ、分業は更に高度化、専門化されている。ベトナムやミャンマーは生産コストは割安だが、熟練工の確保は難しい。中国は生産コストの面での優位性は低下したが、熟練工の確保は容易である。だからこそファストファッションブランドはミャンマーやベトナムに工場を移転したが、高級ブランドは中国に生産を委託している。
これはインフラの整備や教育水準の向上、政情の安定化により今後加速するだろう。もちろん現役世代の所得水準の伸びはこの次の世代の生活水準の向上にもつながり、アジア地域の発展をブーストする。
幸運なことに、アジア地域は石油や天然ガス、鉄鉱石などの資源にも恵まれており、人口が多いことから市場としての魅力も大きい。このことから、アジア域内で生産から消費まで完結することは十分に現実的であると言えるだろう。
トランプ前大統領には彼なりの考えがあり、それを実行した
のかもしれないが、それは彼が敵と見なした中国にますます自信をつけさせることになった。そしてデカップリングは進行するだろう。ただしそれは自信をつけたアジア諸国が欧米の企業をブロックするという彼の思い描いていたものとは真逆のものであるのだが。