中国でアリババの創業者、ジャックマーが中国の金融規制を批判した後、姿を消した。個人的には単純に隠れていただけだろうと推測していたが、政府に拘束されたと主張していた人もいた。その後、アリババの子会社であるフィンテック会社、アントのIPOは延期され、アリババは独占禁止法の調査を受けることになった。これを一部では「復讐」と捉える人もいた。
しかし、事実はそれと異なるはずだ。テンセントも同時期に独占禁止法の調査を受けていた。結局のところ、ジャックマーの発言がなくとも規制当局は調査を始めていただろう。
そんな中国と昨年投資協定を結んだEU、そしてEUと仲違いしたイギリスでも巨大IT企業に対して政府や司法は厳しい目を向けている。イギリスでは一部都市でウーバーの営業免許が停止され、最高裁は満場一致でドライバーは労働者であると
認定した。同様の訴訟はフランスでも起こされており、ウーバーにとって不利な判決が下された。元々EUはあまりアメリカの巨大企業に手厳しい面がある。それもあり、EUは域内のIT企業の育成やアメリカの巨大IT企業の規制を進め、プライバシー問題でも先手を打ってきた。
そして巨大IT企業のお膝元、アメリカでもウォーレンやサンダースの台頭によりGAFA規制は現実味を帯びてきた。公聴会は毎年のように開催され、バイデン大統領は補佐官にGAFAに否定的なコロンビアロースクールの教授を指名した。そしてシリコンバレーが所属するカリフォルニア州ではギグエコノミー規制法案によりウーバーやリフトは事業継続の危機に一時は直面した。
そしてインドでも規制当局は監視を強めている。
これは主にアメリカの巨大IT企業によって引き起こされた惨事を誰も自国で起こすのはごめんだ、と言う思いの表れであろう。特に、中国はアメリカが巨大IT企業で支配されるのを静観するだけでなく、自国の現状分析を続けていたし、アントの急成長の裏には高リスクな債務の証券化という、サブプライムローン危機のようなモラルハザードのリスクを高めるものだった。
これらの動きは短期的には業界に混乱を引き起こすだろう。しかし、1990年代を振り返るとむしろいいものだと気づくからだ。マイクロソフトは独占禁止法の訴訟で消えることはなかったが弱体化を招き、訴訟の恐怖心を植え付けた。その結果モバイルシフトが遅れることになった。そのチャンスを狙ったのがアップルやグーグル、テンセントなどで時価総額
は世界有数である。つまりこの規制強化は古い時代の終わりであり、新しい時代の始まりなのだ。1990年はパソコン市場をでマイクロソフトが支配した。2000年代はグーグルやアップルによりモバイルシフトが進んだ時代だった。2010年にはフェイスブックやネットフリックス、ウーバーなどがモバイルシフトを更に推し進めた。果たして2020年代、あるいはその後の世代には何が起こるのだろうか。そしてそれを引き起こすのは誰なのだろうか?答えはまだわからない。