元日本マイクロソフト社長が書いた本、2040年の未来予想が割と売れているらしい。経歴がやはりブーストの要因になっているのだろう。ただこの本には危険な要素がある。それは中吊り広告で自慢げに書かれている「テクノロジーだけが未来を明るくする」という彼の主張だ。
これと似たことを餃子屋電凸おじさんこと堀江貴文も主張していた。ただこれらの思想には問題があることは明白である。
根本的に言えばそれはテクノロジーと社会の相互作用を無視するようなものだ。これはマルクスやシュンペーターも述べているが、テクノロジーは社会に大きな影響を与える。マルクスやシュンペーターの予測した最悪の事態を我々は避けることができたこと、その後のドットコムバブルの狂乱により我々はその事実を意識的にか無意識的にかはわからないが忘れてしまったようだ。しかしこれは新聞、テレビやインターネットのニュースを見ればわかることだ。
ニューヨーク、パリやロンドンで行われたライドシェアに反対するタクシードライバーたちのデモの様子(パリのものは車を燃やすことまで起こった)やケンブリッジアナリティカが関与したフェイクニュースの蔓延によるトランプ大統領誕生はテクノロジーがむしろ人間を苦しめているのではないかという疑念すら引き起こしている。おまけにAIやロボットの導入による失業者の増大を懸念する専門家も多いことを考慮すると控えめに言ったとしてもあまりにも楽観的であると言わざるを得ない。
おまけに社会の進歩、例えば女性の社会進出や途上国の貧困の解消、性的マイノリティへの理解の広まりはテクノロジーによって引き起こされたものではない。もちろんテクノロジーがある程度貢献したとは思うがそれは野心的な活動家の勝利であってエンジニアや起業家の勝利ではない。
よって彼らの主張は自己中心的であり非論理的で危険であると断定できる。
もちろん、僕はテクノロジーが有益なものであるとは思う。飛行機の普及による観光業や物流業の発達やバイオテクノロジーの活用による食料生産量の増加などがその根拠であろう。しかしテクノロジーは適切な管理を求める厄介なものであるのだ。少なくとも原爆や軍事用ドローンには多くの人の命を殺める可能性があることは否定できないだろう。それを忘れてしまえば我々の社会はひどく分裂・混乱し、テクノロジーによる進歩すら否定されてしまうだろう。